大阪地方裁判所 昭和33年(わ)2192号 判決 1958年9月30日
被告人 三浦茂 外一名
主文
被告人三浦茂を罰金参万円、被告人大川シヅヱを罰金弐万円に各処する。
被告人等が右罰金を完納しないときは四百円を壱日に換算した期間その被告人を労役場に留置する。
理由
被告人大川シヅヱは、同人名義で大阪府知事の旅館営業許可を受け、昭和二十七年十二月から大阪市北区兎我野町百四十番地で旅館「久富」を経営し、被告人三浦茂を支配人として同旅館の業務全般を運営させていたものであり、被告人三浦茂は、右の通り旅館久富の支配人として同旅館の経営を担当していたもので、昭和二十五年二月七日(昭和二十七年三月十三日確定)大阪地方裁判所堺支部で賍物牙保、同寄蔵罪により懲役一年六月及び罰金五千円(但し懲役刑については昭和二十七年政令第一一八号減刑令により懲役一年一月十五日に変更)に処せられたことがあるものであるが、
第一、被告人三浦茂は
1 昭和三十三年六月十六日夜前記久富旅館でその泊り客阿部正治に売春婦本田君子を周旋して引き当て
2 前同日、同旅館で右本田君子が右阿部と喧嘩して帰つたので更に阿部に売春婦二川節子を周旋し引き当て
3 同六月中旬頃夜同旅館でその泊り客鈴木竜夫に売春婦本田君子を周旋して引き当て
4 同六月三十日夜同旅館で前示阿部に売春婦二川節子を周旋して引き当て
5 同年七月三日夜同旅館でその泊り客の年令三十四、五才位の通称「のつぽ」という綿布商人に売春婦二川節子を周旋して引き当て
6 同月十九日夜同旅館で前記鈴木に売春婦山田とし子を周旋して引き当て
た。
第二、被告人三浦茂は前記旅館久富の業務の運営として
1 昭和三十三年六月十六日夜前記第一の2記載の通り二川節子が阿部正治を相手として売春することを知りながら千円の部屋代で同人等に同旅館の一室を貸与し
2 同六月中旬頃前記第一の3記載の通り本田君子が鈴木竜夫を相手として売春することを知りながら千二百円の部屋代で同人等に同旅館の一室を貸与し
3 同六月三十日前記第一の4記載の通り二川節子が阿部正治を相手として売春することを知りながら千百円の部屋代で同人等に同旅館の一室を貸与し
4 同年七月三日前記第一の5記載の通り、二川節子が氏名不詳の男を相手として売春することを知りながら千百円の部屋代で同人等に同旅館の一室を貸与し
以て売春を行う場所を提供した。
第三、被告人三浦茂は、昭和三十三年七月十九日前記第一の6記載の通り、山田とし子が鈴木竜夫を相手として売春することを知りながら千二百円の部屋代で同人等に同旅館の一室を貸与し
以て売春を行う場所を提供した。
証拠の標目(略)
法令の適用
被告人三浦茂の判示第一の各所為は、売春防止法第六条第一項に、判示第二、第三の各所為は同法第十一条第一項に夫々該当するが、諸般の情状により所定刑中各罰金刑を選択し、以上は刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十八条第二項を適用して同被告人を罰金三万円に処し、本件久富旅館の経営者たる被告人大川に対しては、売春防止法第十四条により同被告人の使用人で同旅館の支配人である被告人三浦の判示第二の各所為につき、その罰条たる各本条の罰金刑を科すべく、その右各所為は前示の通り同法第十一条第一項の罪の刑法第四十五条前段の併合罪であるから同法第四十八条第二項により各その所定罰金の合算額範囲内で被告人大川を罰金二万円に処し、被告人等の右罰金不完納の場合につき夫々同法第十八条を適用する。
被告人三浦茂の弁護人は同被告人の判示第一の各売春の周旋行為と同第二、第三の売春を行う場所提供の各行為とは夫々刑法第五十四条第一項前段の一所為にして数罪名に触れる場合であると主張するが、旅館の支配人たる同被告人が同旅館でその泊り客と売春婦との間に売春を周旋したとて、その行為自体が直ちに売春の場所の提供となるものではない、何となれば売春の場所提供罪の構成要件としては場所の提供が必要であるのに拘らず、売春の周旋(売春をする者とその相手方となる者との間で売春行為が行われるように仲介することであり、両者が周旋行為を依頼又は承認したときに既遂となる)行為にはかかる要件を含まないからである。従つて同被告人が同旅館で売春の周旋をした上、その男女をして同旅館で売春を行わしめた場合には売春の周旋罪の外に売春の場所提供の別罪が成立するものである。弁護人の右主張は認容し得ない。
よつて主文のとおり判決する。
(判事 塩田宇三郎)